2015年12月13日

昨日のガイヘル

ここ数年、ガイヘルと言う形で付き合う当事者。
「強度行動障害」と称される彼は、当初自動車でなければ移動ができないほどであった。
それは、
周囲も彼が招く行動に対処できない面もあるが、
彼自身も、自らが起こした行動に対し臆病になり車以外の移動を躊躇していた。

1〜2年ほど、私もドライブガイヘルを担っていた(初めの初めはこれさえ危険が伴っていた)が、
先々のことを考えると、その状況はとてもイレギュラーなことであり、
車という閉ざされた空間を使い、いつの日か車以外の手立てでガイヘルできることをつぶやいていた。

ある日突然。
「今日は、電車に乗ろう!」と言う彼。
車で訪問した私は、突然の申し出に驚きつつ、
それは、こちらも望んでいたことなので、
「良し!乗ろう」とした。

初めて、彼と一緒に電車に乗った時、
過去にあったトラブルが再び起こらないように非常に緊張した。
彼も又、一大決心で臨んだ「電車」横にいる私が緊張すれば、彼はもっと緊張するだろうと、
懸命に私自身の緊張をごまかし彼とともに電車に乗った。

すると、
一つの決心が次を生み出す。
それ以降、彼は私がガイヘルを担当する際には、「電車に乗る」と決めたらしい。
「電車に再び乗れた」と言う喜びを表す彼。
それと同時に、「彼はなぜ過去トラブルになったのか?」と言う理由があれこれ見えてきた。
又、理由が見えれば単に不安から現れる緊張はどんどん溶けて、
「乗り鉄ガイヘル」などといえる程の余裕が双方に生まれた。

彼は、JRや私鉄や地下鉄を駆使して都心を駆けまわる。
どの路線のどの電車に乗りたいのか?
そこには何か規則性があるのか?
単に思いつきなのか?
と考えつつ、私自身は不慣れな都心の鉄道に、只々彼を見失わないように努めていた。

それがいつしか、
電車に乗るだけではなく、改札を出て目的のところへ行くようになった。
それまでも、ロングなガイヘルのために、お店に入って食事はとっていた。
しかし、
明らかに目的を持って改札を出る彼が現れた。
特定のファーストフード点やドリンク販売所や喫茶店。
特定の街の商店街や◯◯鉄道博物館等々。

乗り鉄に紛れて無意識であったらそれらの場に向かう彼の意図は見えなかっただろう。
しかし、
電車に乗っている間にいろいろ考えら得られる余裕が生まれてくると、
そもそも乗り鉄に興味のない私は、乗り鉄に興味のある彼に興味を抱き、電車に乗っている間に色々考えだした。
(電車に乗り出した当初は、ずっとおしゃべりしていたので考える余裕もなかったのだが)

一人で考えても答えは出ないので、毎回ガイヘルが終わった後に家族に報告しながら、その場所についてなにか思い当たることがないかと訊ねた。
さらに、他のヘルパーと情報を共有し彼の行動が意味するものを考えた。
その情報は、過去ガイヘル利用が崩壊した時代にも遡り、あれこれ収集する。

すると、そこに見えてきたのは、
改札を出て向かう先は、彼にとって何らかのいわくつきの場所。
すなわち、どれもこれもトラブルを招いた場所という共通項が見えてきた。
そして、
彼は、私と電車に乗れるようになった事から、
過去の出来事を清算するかのごとくに出かけていった。

この1年は、粗方清算が終わったようで、思い出したようにいわくつきの所に行くも、
(「良し、大丈夫だ。また来れる」というのを確認するにとどまっているように感じた)

この数年、
ロングなガイヘルの殆どを電車で過ごす日々が続いていたが、
最寄り駅の電車にはまだ乗れない彼。
彼にとっては、最大の難関なんだろうと思う。
なので、
車で自宅に迎えに行き、車を事務所の駐車場に停めて、事務所から近い駅から乗り鉄をスタートさせていた。

それが、前回のガイヘルの際、
「新しいヘルパーを見つけないと」と言う彼の意思が現れ、
それを実現するには、まず「車で迎えに行くことを止める」と言う提案をこちらからすることになった。
それについて、実感が伴っていたからかあっさり了承した彼。
でも、当日本当にそのように対応できるのか?と少々疑っていた。
でも、電車で彼の家に迎えば自ずと車はないので、「そうするしかない」と思っていた。

最寄りの駅からは未だ乗れない彼。
でも、「バスには乗れる」というので、最寄り駅から出ているバスに乗り、遠くの駅から電車に乗った。
彼が予定していたバスルートのバスは30分以上待つ。
別の駅ならすぐにバスが来る。という状況にあっさりと後者を選択。

このことから、彼は実感を伴い「今日は車を使わない」という事を了承していたことを確認する。

そして、
今日彼が行きたかった場所は・・・

なんと、一番初めに「清算」を済ませたいわくつきの喫茶店。
すでに、「清算済み」なのでここ最近はまったく立ち寄る気配がなかった場所。
それが、唐突に再び「今日の目的地」として上がり、本人のいうがままのルートでそこへと向かった。

滞在時間約10分。
レジのお姉さんに「また来ていいですか?」と聞き、
お姉さんや隣りにいたおばさんが「どうぞ、ぜひお越し下さい」と返され、
満面の笑み。

この様子から、彼は確認をしたかったのだろうと思った。
さらに、その場所が一番初めに「清算した場所」ということから、
今日の新たな取り組みに際し、原点(すなわち、ヘルパーを使えば再びくることができる)を確認したかったのだろうと思った。

店を出て、
「次はどこ行く?」と何気に聞いてみた。
普段の彼ならば、そこから都心に戻り乗り鉄を開始する。
また、私の予想ではあれこれ「清算した場所」に引き続き向かうのだろうと思った。

ところが、
「どうしようかな〜」という彼。
今日の目的地は「ここだけ」という雰囲気だったので、
「じゃあ〜、ここから先の電車に乗ってみない?」
と声をかける。
すると、すぐさま
「そうだね!そうしよう!」という。

その先とは、彼はまだ言ったことがない場所。
ただ、都心の電車はいろんなルートがあるので、名前だけは知っている場所だったからかもしれない。
あっさり了承され、新たな路線に乗る彼。

やはり、先ほどの喫茶店は一つには過去の私とのやり取りを確認する事が目的だったのだろう。
そして、
その確認は、単に過去を振り返るためではなく、
新たな方向へと向かうための確認であったのだろう。
新しい路線に乗るということはそれを象徴しているかのようで、
すごくワクワクした。

その後も、話には聞くが彼と一緒に乗ったことのない路線を乗りまくる。
途中下車しようとする彼に、「このまま乗っていると◯◯駅に着くよ」と提案すると、
「そうだね」とあっさり了承。
以前の彼は、何らかの目的があったルート選択をしていたのだろうが、今日の目的はすでに達成したから、こちらの提案にあっさり了承できたのだろうと感じた。

最後の最後。
やはり遠くの駅からバスに乗り最寄り駅まで向かう。
お母さんが駅まで迎えに来てくれているかを確認するも、
来ていないことを確認し(来て貰う約束もしていなかったので)
徒歩20分かけて自宅へと戻った。

帰宅途中、
「今日は、JRの◯◯線と△△線と☓☓先に乗ったね。地下鉄は、☆☆線と◇◇線だね」と、
今日は、いつもとは違うルートで過ごしたことを強調する彼。
さらに、
「◎◎線には乗らなかったね!」という彼。
◎◎線とは、最寄りの駅の路線。
今まで、私がその路線に乗ることを提案しても、一切取り合わなかった彼。
しかし、
自らがその路線を口に出したのには驚いた。

想像するに、
彼は、最寄りの駅から乗りたくないのではなく、
最寄りの駅からまだ乗れないのだろう。
「まだ」という気持ちがあるから、その路線名を口にだいたのだろう。

家族以外の人と出かける。
ドライブガイヘルから乗り鉄ガイヘルへ。
そして、
昨日は、車で迎えに行かなくても大丈夫という経験を積んだ。
それは、
新たなヘルパーを見つけ、自らの想いを実現するために必要なこととして思い描いている彼。

まだまだ、やりたくてもやれないことがたくさんあるだろう。
しかし、ヘルパーを使い自らの想いを実現している実感を積み重ね、
その先を見据えている彼を感じた一日でした。
posted by 岩ちゃん at 11:00| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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